うそつき執事の優しいキス
「……フツーは、ハンカチ出さない?」


「執事だったら、真っ白くて糊のぱりっときいたヤツ出すかもな。
 だけど、俺、まだ、違げーし」


「宗樹は、西園寺の執事じゃないよね?」


 わたし、宗樹に抱き締められながらささやいたから、彼がどんな表情しいてるのか判らない。


 宗樹は、わたしの質問には答えずにはぐらかすように聞いて来た。


「なんで、泣くんだよ?」


「判んない。でも、宗樹が何もしゃべんないで、怒った顔、しているのはちょっと、やだなって」


 そうは言ってみたけれど、本当に一番いやなのはお人形さんみたいな無表情で。


 涙が出て来たのはきっと、宗樹が話しかけてくれて安心したからに違いなかったんだ。


 そこまでは言えずに、なんで、怒っていたの? ってそっと顔をあげたら、宗樹の困った顔に出会った。


「そか、俺。怒ってたように見えたか……?
 何も感じてない、つもりだったんだけどな……」


 やっぱりダメか、なんて息を吐く。


「……悪りぃ、俺、今頭ん中ぐるぐるなんだ。
 裕也がさ。
 やけに真面目な顔して、お嬢さんのコトが欲しいんだけど、どーすりゃいいかって言って来やがるんだ。
 最初は、裕也の絶対出来そうもねぇコト……
 まず、今関わってる女の子から、全部手を引けば? って言ったらさ。
 その場で、次々に女友だちに断りの電話かけやがんの」
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