うそつき執事の優しいキス
 ……そろそろ『彼女』に昇格してもいいかな、なんて言ってたヤツにまで、電話かけているのが信じられなかったけれど。


 もっと信じられないのは、落とす対象であるはずのあんたにも、無茶なコトはぜってぇしねぇ、って真剣に誓うし。なるべく短気も起こさねぇって言う。


 今回ばかりはコイツ、本気だなって思った、なんて宗樹はわたしを見つめて話した。


「女グセが悪りぃのと、気に入らねぇヤツへ簡単に喧嘩を売ることを抜かせば、裕也はすげーヤツだからな。
 これから先も側にいりゃ、あんまり他人(ひと)がやらないことを見られそうで、面白い。
 無茶なことをしねぇように、時々気をつけておいてやれば、多分。
 お嬢さんにぴったりな相手になるかもな……って思ったらさ。
 ……すげー苦しいの。
 この胸が」


 宗樹自身、本当に苦しそうな声を出し、天井を見つめた。


「西園寺のお姫サマは、神無崎の殿サマと幸せになりました。
 めでたし、めでたしって、それでいいじゃん?
 ……なのに、俺……なんか変に納得できなくてさ……莫迦みてぇ」


「宗樹」


「執事ってさ、仕える主人に惚れんの。
 そうじゃなきゃ、主人の要望に完璧に応えて、守り。
 普段の生活を快適に過ごしてもらうことなんざ、できねぇから。
 ……だから。
 ずいぶんとガキの頃、お前が将来仕える主人はこのヒトだって、あんたを紹介されたとき……少し……嬉しかったんだ」
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