うそつき執事の優しいキス
 子どものころから『西園寺のため』って言われ続けて、習い事を詰め込まれてる生活がイヤだったと、宗樹は言う。


「遊ぶ時間もほとんど無くてさぁ。
 自由を奪ってゆく西園寺が、最悪に嫌いだったんだ。
 けれど、西園寺の庭園で楽しそうに遊ぶお嬢さんを何度も見てるうちに気が変わった。
 あんたの世話をするのなら西園寺も、それに仕える藤原も、そう悪くねぇって思ってたんだよ」


「ええっと、わたし、宗樹とそう、何度もあったっけ?」


「いいや。
 俺とあんたは『オトモダチ』じゃねぇからな。ちゃんと引きあわされてたのは、一回だけだ。
 あとは小等部……小学校の期間の時に、何回か俺が勝手に会いに行ったのと。
 他は用があって出入りするオヤジやオフクロについて行ったときに、俺が一方的に見てただけ」


 その、子どもの頃の想いのままに、一気に二十歳をとっくに越えた大人になって。


 一人前の執事になってから、お嬢さんと会えれば、何も問題なかったのに、と宗樹はため息をついた。


「……なのに、あんたが俺と同じ学校に入るっていうじゃねぇ?
 西園寺の執事になるのなら、セレブリティの生活も、一般の生活もきちんと判って無くちゃいけねえことになってるからな。
 海外の一流執事養成学校に入る手前、高校か大学で、一度一般人と混じることになってたし。
 めんどー事に巻き込まれた裕也を放って置けねぇから、高校を公立にすることに決めたけど。
 あんたは、ただ遊びに来たんだって?」
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