うそつき執事の優しいキス
「べっ……別に遊びに来たわけじゃ……」


 無いって言いかけて……やめた。


 やることなすこと、全~~部お仕事だのお役目だのの一部になってるみたいな宗樹にとって。


 わたしの『オトモダチを作る』って言う目標は『お嬢様の気まぐれ』以外の何物でもない……よね。


「……遊びかも……」


 しょぼん。


 落ち込むわたしに、宗樹は柔らかく笑った。


「別に、あんたは何をやっても良いんだよ。
 俺の……藤原家の主(あるじ)なんだから。
 あんたのやりたいことを、滞りなく支えるのが、俺達の役目なんだし。
 ただ、直接会って手伝う俺の……心の準備が、整えて無かっただけだ。
 もう、執事にしか道が無く。
 お嬢さんがどんなヤツでも動じねぇ『オトナ』だったら良かったのに。
 今からだったら、未来(さき)をどーとでも変えられるかもしれねぇ。
 そんな幻想で、心がグラグラ揺れてんのが、自分でも判る。
 この感覚がすげー気持ち悪くてさ。
 改めて、西園寺が嫌いになったくらいだ」


「……宗樹」


「お嬢さんに惚れるのは良い。
 執事になるんだったら当然だし、許される。
 だけど、お嬢さんを自分のものにすることは、執事であるかぎり、できねぇ。
 執事は、お嬢さんにふさわしい相手が見つかったら、そいつのために、ぴっかぴかに磨き上げて渡すのが、仕事だから」


「……」
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