うそつき執事の優しいキス
 この声は、蔵人さん……かな?


 もしそうなら、最初に会った時の歌とちょっと印象が違う。


 今日の歌は、なんだか静かなバラードみたい。


 単純な音の大きさって言うなら、そんなに大きくなくても波の音しか聞こえない、朝の通学路では、十分だった。


 切ない感じなのは、蔵人さんの『歌』の特徴みたい。


 この前は、海と桜と風が見えるような、迫力ある鮮やかな景色の歌だった。


 そして今日は、切なさの上に『誰かのコトが大好き』なイメージが重なって、恋の歌みたいに聞こえる。


 相変わらず歌詞なんてないけれど。


 本人も含めてみんなが『音痴』なんて言ってるのが、どー聞いても信じられない。


 どんな歌い方でもキレイだな~~


 なんて、声に誘われて金髪の主を探せば……いた。


 蔵人さんが、大きな岩の上に座って、ぼんやり、つぶやくように歌ってる。


 その様子が、まるでBGMつきの『絵』を見ているみたい。


 今日の服はみんながフツーに着ている君去津の制服はずなのに、朝日に照らされ歌う姿を見れば、特別なステージ衣装にも見えた。


 とびきりのイケメンって、お得かも。


 ただの制服をこんな風に着こなせるのは、多分蔵人さんの他には、宗樹と神無崎さんぐらいだ。
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