うそつき執事の優しいキス
 蔵人さんの歌う歌も、彼を取り巻く景色も、とてもとてもキレイだった。


 思わず声をかけることも、時間も忘れて聞き入ってたら、蔵人さんの方がわたしを見つけたみたい。


 歌の最後のフレーズがそっと風に溶けて消えて。


 心の中の余韻も鳴り止んだ絶妙のタイミングで、かなり高い岩の上にいた蔵人さんが、わたしに向かって手を振った。


「やあ。今日も早い、ね」


 耳が壊れてて、補聴器が無いとほとんど聞こえないそうな。


 独特の節回しのしゃべり方をする蔵人さんは、はにかんで笑うと、岩の上からわたしの近くまで降りて来た。


 その様子が、ふわり、と身軽で、蔵人さんの肩には翼が生えているようだ。


 銀に近いプラチナブロンドの髪に、青い目……彼は自分の名字『ライアンハート』の中に入ってる『ライオン』より、天使に見える。


 いつもながら。


「やっぱり、蔵人先輩の『歌』ステキです~~」


 ため息と一緒に素直な感想を言ったら、彼は嬉しそうに笑った。


「そんな風に言ってくれるのは君だけ、だよ」


「おとといの歌も良かったんですが、今日のは、もっとキレイです。
 『大好き』が一杯詰まった、優しい歌だなって」


「ふふふ。
 だとしたら、僕。
 君のコトが好きなのかもしれない、ね」


「……へっ?」
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