うそつき執事の優しいキス
 挙句の果てに、蔵人さん、何だか自信無くなって来た~~なんて、言いだすし!


 わたし、そんな彼の肩をがしっと捕まえて、振ってみた。


「蔵人先輩が、音程拾えないことは、とっくに知ってますってば!
 今知りたいのは、同じ曲を正確に何度も繰り返すことが出来るか、ってことなんです」


 楽譜ありの歌の腕前は、誰もが知っているところなんだろうけれど、みんなはきっと、蔵人さんの本当の歌声を知らない。


「蔵人先輩の『歌』がステキなのは、わたしが知ってますから。
 だからさっきの歌を、もう一度、ここで」


 歌って、ください。


 そう言って、蔵人さんを見上げれば、彼はわたしをその青い瞳で見つめ返し……少し迷って、うん、とうなづいた。


 そして、歌う。


 少し静かな優しい、優しい歌を。


 これは、今日初めて聞いた方の『大好き』が詰まった歌だ……!


 わたし、さっき海の見える通学路でこの歌を何回か、聞いてるし。


 次に、どんな音が来るのか予想できたから、音程確かめるついでに、ざっとピアノで伴奏をつけてみた。


 蔵人さんの声に合わせて、思うままにピアノのキーを叩いてみると、歌と曲に載せて思い浮かぶのは、宗樹のコトだった。
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