うそつき執事の優しいキス
 部活紹介の時に、難しい曲をキーボードで演奏していた、彼の真剣な横顔……


 痴漢かもしれないって、怒って握りしめてくれたこともあったけど。


 通勤ラッシュで流されそうになった人ごみから、わたしを守ってくれた、優しい手。


 お役目だからって、感情を押し込めてみたけれど、すぐに壊れてしまった執事の仮面。 


 ああ、やっぱりわたし、宗樹のコトが好きなんだなぁって。


 そんなことを思い出す曲になったかも……しれない。


 優しくて、切なくて。


 けれども、ちゃんと力強い男のヒトの背中が見える。


 音も最初に聞いたままブレずに、気持ち良く。


 ピアノの音と蔵人さんの歌の余韻が、同時に空気に溶けて、キレイに終わった。


 うん、これならいけそう!


 思わず、蔵人さんに良かったよ、マークの親指を突き出し。


 顔を見合わせてにへっと笑ったら、隣で黙って聞き入ってた井上さんが、はっと、我に返ったように拍手をした。


「これは、ラブソング? すごく良い歌……」


 そう、言って近づきかけた井上さんの声に重なるようにして、低い声も聞こえた。


「蔵人が……歌った……!」


 驚いた……っていうか。


 ほとんど『呆然』と聞こえた宗樹の声に扉を見ると、そこに宗樹と神無崎さんが、いた。
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