うそつき執事の優しいキス
 ええっと、二人とも。


 一昨日の再現みたいな殴られた傷を顔に、一つづつつけてますが……?


 今日は、多分普通の日、だ。


 別にステージに上がる予定は無いだろうし……大丈夫かな?


 なんて、一瞬思ったわたしの前に、神無崎さんが駆けるようにやって来た。


「西園寺。お前、蔵人と前から知り合いだったのか!?」


 その様子に、わたしはビックリして首を振る。


「う……ううんと。
 おととい、初めて海の見える通学路で会ったから……今日で三日目……かな?」


「ウソだぜ! たった三日でこんな曲が作れるなんて!
 しかも、あの蔵人に、こんな風に歌わせるなんて!」


 オレサマだって散々苦労して、歌わせようとしたこともあったのに!


 ……と、神無崎さんは叫んだけれど……そう、言われましても。


 実は『三日』じゃなく二、三回歌を聞いただけ、とは修正しづらい雰囲気に困っていると、頭痛をこらえるように頭を抱えた宗樹が言った。


「……お嬢さ……西園寺。
 もしかして、他の部活でもこの調子で体験入部してみた?」


「う……うん。こんな感じって言うかフツーに?」


 茶道部ではお茶を立ててみたし、華道部では、お花生けてみただけなんだけど。


 テニス部やその他の運動系の部活では、ことごとく、部長さんにストレート勝ちしたのは……やっぱりマズかったのかなぁ。
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