うそつき執事の優しいキス
 普段、にこやかに起こしてくれる爺が『今日の予定は、世界の終わりです』と言いだしかねないため息をついた。


「本日のご予定は、お嬢さまのご念願だった、公立の君去津(きさらづ)高校入学式、ご出席でございます。
 本日は、まことに……おめでとうございます」


「……宗一郎。全然おめでたくも、嬉しくもなさそうな表情(かお)してるね」


 爺の魅力は、年をとってもなお、俳優みたいに見える整った顔ばかりじゃない。


 とても上手なピアノ演奏だったり。


 西園寺家の内向きの仕事を一手に引き受けて、背筋をしゃんとのばし。広々とした部屋や廊下をキビキビと優雅に歩く所だったりする。


 要は毎日、クリーニングから返って来たワイシャツみたいにピシッとしているのに……なんだか、今日は変だ。


 ……なんて、ね。


 ホントは、宗一郎が落ち込んでる理由知ってる。


 ぜーーんぶ、わたしのせいだから。

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