うそつき執事の優しいキス
 神無崎さん、無謀! って叫ぶ井上さんに、わたしは手を振った。


「確かに『作曲』は出来て無いけど『ヴォーカルが歌う曲』はもうあるし。
 ダイヤモンド・キングな神無崎さんや他の助っ人を含めたメンバーがどれだけ上手いかは謎だけど。
 宗樹は初見の楽譜でも、ピアノ演奏なら一週間で一応、ヒトに聞かせられる曲の形にはなるって……」


 他のヒトビトは追いつかなくても、最低ピアノ&ヴォーカル曲にはなるらしい。


「つくづく、クローバー・ジャックって器用よねぇ」


 井上さんは、感心したように息を吐くと、わたしの手をとった。


「じゃあ、こんな所で、のんびりしている暇無いじない!
 二週間後の発表を成功させるためにも、一刻も早く新曲を書かなくっちゃね!」


「うん!」


 井上さんと手に手を取って、第三音楽準備室に移動する。


 教室から出た途端。


 一瞬、視線が集まったけれど、うぁっと、集まって来る気配もなく、廊下を歩いてみることができた。


 なんて、素適な気分!


 入学した最初の一日目以来、人ごみをかきわけるばかりで、周りのヒトや風景を良く見る暇なんて無かったけれど、校舎から海が見える場所もあるんだね。


 第三音楽準備室からも、キレイな景色が見えるらしいのに。


 一番良い窓際は、もう宗樹と神無崎さんがいて、外を見る余裕もなく、何やら打ち合わせをしているのが見えた。


 二週間後の発表に加え……やっぱりわたしの方の用事(マネージメント)って宗樹の負担に……なってるよね?
< 201 / 272 >

この作品をシェア

pagetop