うそつき執事の優しいキス
「あっ! いえいえ大丈夫です!
 確かに、そんなに簡単な曲にはならないと思いますけど!
 大好きな曲なので、全く苦じゃないです!」


「理紗の好きなのは僕の歌、だけ?」


「……えっ!?」


 困った顔の天使が目を細めると、ちらっと腹黒悪魔な顔になったような気がした。


 何かの見間違いかと見なおせば、蔵人さんは天使と悪魔の中間な顔をして笑う。


「歌だけじゃなく。
 僕本人も好きになって欲しいな、なんて。
 言ったら困る?」


 えっ! ええっと、それって……


 朝。


 宗樹も言ってたよね?


 蔵人さんの歌ってる気持ちの全部が、わたしの方を向いてるって。


 しかも、この歌。


 歌詞が無いくせに、誰がどー聞いても、ラブソングで……って!


 なんか、判りやすい蔵人さんの想いを、わざと無視しているような気がしてイヤ~~


 ピアノの前に座って、指慣らしを始めようかと思っていたわたしには、蔵人さんから、逃げる場所なんて、ない。


 困って身をすくませていると、突然、蔵人さんの頭の上で、べしっと紙の束が打ちつけられる音がした。


 見上げると、神無崎さんが何かの資料の束で、蔵人さんの頭を殴ろうとし……寸前、蔵人さんがそれを手で払ったみたい。
< 204 / 272 >

この作品をシェア

pagetop