うそつき執事の優しいキス
「コラ! そいつはオレの女だ!
 オレサマの目の前で勝手に口説こうなんて、イイ度胸じゃねぇか!」


 紙の束の武器が、思った所に当たらず、余計に腹が立ったらしい。


 怒鳴る神無崎さんを蔵人さんが笑う。


「誰が誰の女だって?
 宗樹にならともかく貴様に言われる筋合いは、ない!
 しかも、貴様には本当の本命がいるじゃない、か!
 そいつがいくら手の届かない相手だからって!
 理紗を身代りになんて、させないからな!」


「てめ! 言わせておけば!!」


 神無崎さんには、実は本当に本命な、好きな人が別にいる。


 うん。


 それ、なんとなくわたしにも、判ってた。


 わたしに会ってから、ずっと自分の女になれ! と散々言ってたけれど。


 神無崎さんの視線は、わたしを素通りして、もっと違うヒトを見てた気がする。


 だから、怒っている宗樹よりも、笑っている神無崎さんの方が怖かったんだ。


 わたしの方に、本当の気持ちが乗っているわけじゃないから、怖い……!


 そんな、出会ってすぐのわたしにでさえ、判ってしまうそのコトが、神無崎さんにとっては、とても隠したい重要なこと、だったみたいだ。
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