うそつき執事の優しいキス
「……やっぱり、ここにいた」


 いつもは、ぎょっとするほど高い背が、丸まっている。


 地球の裏側まで行けそうなほど、ずーーんと落ち込んでるような、神無崎さんを見つけたのは、昨日、二人でお昼を食べた場所。


 学校の柵をくぐって越えた海の見えるベンチ、だった。


 大きな木の机に頬杖ついている神無崎さんの隣に座れば、彼は、力無く吠えた。


「……なんだよ、てめ。
 ついて来るな、って言っただろーが」


 殴られたのは、蔵人さんの方なのに、傷ついたのは、神無崎さんの方みたいだ。


 低い、地を這うような声は怖かったけれど、本当は一人にしないでくれ、って言っているように聞こえる。


「宗樹には来るなって言ったけど、わたしには言ってないもん。
 それに、何だか話があるように見えたし」


「……くそ」


 神無崎さんは、吐き捨てるように悪態をつくと、陽の傾きかけた空を見上げた。


「悪りぃな~~
 蔵人の言ってたことは…………本当だ。
 せっかく追っかけて来てくれてもよ~~
 お前を、オレの本命の彼女にゃ、できねぇわ」


「べ……別にっ!
 神無崎さんを彼氏にする気は、全く無いのでお構いなく~~」


「ちぇ」


 言って神無崎さんは、自分の頭をバリバリと掻いた。
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