うそつき執事の優しいキス
「神無崎さん……」


「恋って何だろうな……
 そして『愛』ってヤツの正体は?
『大好き』だって言う気持ち?
 宗樹を女代わりにする気はねぇんだ。
 キスやら、もっとエロい事をしたいわけでもねぇんだ。
 ただ、ただ、愛しくて、大切で……やるせなく。
 ずっと、すぐそばで見ていたいくせに、本当に見てると胸が締め付けられそうなほど、苦しい」


 神無崎さんの言葉は切なくて、まるで泣いているようだった。


 ああ、本当に、それが愛って言うものの正体なら。


 ……わたしも宗樹を愛してる。


 宗樹を見るたびに湧きあがってくる胸の痛みは、彼の選べない未来を同情しているわけじゃなく。


 わたしが、宗樹の事を『好き』って言う印。


 そんなコトに始めて気がついたわたしに、神無崎さんはしみじみと言った。


「宗樹ってさぁ。
 初めて出会ったガキん時から、ほっとんど表情のねぇヤツでさぁ。
 オレサマが喧嘩を売っても、ガッコのせんせーが何やっても、怒ったり泣いたり笑ったりしねぇの。
 でもな。
 本当に時々なんだけど、何かの拍子に笑うコトがあって……それが、めちゃくちゃキレイだったんだ」


 そこまで言って、神無崎さん自身もその時のことを思い出したのか。


 寂しげに、だけど、とてもキレイな表情(かお)してほほ笑んだ。


「ああ、オレ。コイツの笑顔、もっと見たいなー、と思ったのは、いつからだったかなぁ。
 いっつも側にいて、いろんなことを二人でやってさ。
 何年もかけて、宗樹をげらげら笑わせることにも成功したけど。
 西園寺(おまえ)は出会った瞬間、一瞬でアイツの表情を引き出しやがったんだ」
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