うそつき執事の優しいキス
 宗樹は淋しそうに言った。


「もしお嬢さんに振られても、執事になったら、毎朝ピアノを弾くんだろうな。
 でも、お嬢さんを無理やり手に入れようとして、失敗したら。
 このピアノにさえ、二度と触れることが出来ねぇ。
 ……そう考えると、心が押しつぶされそうになるんだよ。
 もう二度と会えなくなるくらいなら、俺は一生お嬢さんの執事でもいいかな、って」


 だから、さっき試しに『おかえりなさいませ』って言ってみたんだけど、それも、何だかしっくり来なくてさぁ。


 そう言って、笑う宗樹が、悲しくて。


 わたし、宗樹にもう一度、抱きついた。


「うわわわっ……まっ……待て!」


 今度は、わたしが宗樹に飛びこむ力が強すぎたらしい。


 椅子に座っていた宗樹はバランスを崩して、ガッターンと床に落ち、わたしは、宗樹の上に乗っかる感じになった。


「お嬢さん! 頼む! 今すぐ俺の上から、どいてくれ……!」


 宗樹。


 わたしの下で、長々と寝そべって色々騒いでるけど、無視!


「黙って聞いてれば、何よ!
 一方的なのは『好き』って言う気持ちを押しつけることじゃなく。
 わたしの気持ちも知らないで、自分だけで全部考えて完結しちゃうところが、一方的、なんだわ!
 わたしだつて、宗樹のコト、好きなのに!
 昨日だって、大好きだって言ったのに!
 どうして判ってくれないの?」

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