うそつき執事の優しいキス
 そうじゃなくでも、今のわたしは、何やっても上手く行かないヒトなのに!


 これでバンドに入ったら、また宗樹に迷惑をかけるんじゃないかしら。


 それが一番怖かった。


「ごめん……やっぱり、わたしにCards soldierは無理かなぁ」


「……そっか……」


 長い間ずーっと黙って考えた。


 それで出たセリフに、宗樹が残念そうに息をついた時、電車は丁度君去津駅に滑り込んだ。


 相変わらず、どよよよんとした古い駅構内からわたしを守るように、宗樹は歩く。


 そして、いつもは別れる駅の改札口を通り過ぎ……言った。


「今日は、もう少し先まで一緒に歩こうぜ?
 実は、海で裕也や蔵人達と練習の待ち合わせをしてるんだ」


「珍しいね。どうしたの?」


 Cards soldierの練習場所は、もっぱら第三音楽準備室で、そこから移動することは無い。


 首をかしげるわたしに、宗樹が軽く肩をすくめた。


「ここで、蔵人の歌に歌詞が出来てさ。
 合わせようとしたんだけど、音に言葉を乗せると、蔵人の音程が歌うたびに変わるんだ。
 音が違うって言っても、蔵人にはわからねぇし。
 いろいろやったら元の音の出し方も忘れそうだっていうからさ。
 一番初めに歌を作った場所で、気分転換するんだってさ。
 ん、で。
 俺は、歌う蔵人に付き合って、音を聞こうと思って」


「えっ……!」


 それは、大変なことだよ!?
< 251 / 272 >

この作品をシェア

pagetop