うそつき執事の優しいキス
 がしっと、制服の上からわたしの肩口をつかみ、ぐるっと回して、正面に向かすと、言った。


「……訂正個所が、ある。
 君去津に合唱部は、無い。
 そして僕はそもそも歌なんて歌って、無い」


「……は?」


 金髪の彼の言葉に、わたし、聞き返しちゃった。


 えっええと。


『君去津に合唱部は無い』


 ……うん。これは、たしか入学案内の部活紹介に『合唱部』とは書いて無かったような気がする。


 でも『歌って無い』?


「い……今さっきまで、すごく良い声で歌ってませんでしたか?」


「……今の、ただ声を出してた、だけ。
 僕は、ヒドイ音痴、でね。
 どんなに簡単な曲、でも。
 音程が判ら、ない。
 だから僕の、声。
 歌にも音楽にも、ならない」


「……ウソ……!
 でも、すごくキレイな声でしたよ?
 わたしには、ちゃんと『歌』に聞こえましたけど?」


「……本当?」


 わたしの言葉に、金髪の彼は鋭い眼差しをほわっと和らげた。

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