うそつき執事の優しいキス
「あっ……あああっと、良いです、あるモノなら何でも!
 ……っていうか、買えるモノだったら……なんでも」


 いつもお買物はカード払いで、現金は持ち歩かないものだから、今お財布にあるのも、電車代と少しぐらいだ。


 帰りも電車に乗るつもりなら、行きに宗樹に立て替えてもらった分ぐらいしか……無いんだけども。


「でも、こんなにちょっとでパン、買えるのかしら……?」


 ドキドキしながら、井上さんに見せたら……なぁんだ、全然大丈夫よと明るく笑った。

 そして、今買った自分の分を持っててって、わたしに預けると嫌な顔一つしないで、人ごみの中に飛び込んでゆく。


 さっきよりも、絶対お昼を買いに来た人、多くなっているのに!


 ……井上さんて、いいヒトだなぁ。


 そして、とても頼りがいのあるヒトだ。


 大勢のヒトの間から、井上さんが買って来てくれたのは、クリームパンと、焼きそばが挟んであるパン。


 そしてイチゴ味って書かれた牛乳だった。


 二人で持って帰って、教室で食べたその昼ごはんは、はっきり言うと大したものじゃない。


 カスタードクリームのクセにバニラビーンズが一粒も入ってなかったり、油っこい麺の詰まったパサパサパンだったりしたんだけど。


 それでもマズく感じなかったのは、きっと、わたしがお腹が減っていたことだけじゃなかった。


 井上さんとの話が楽しかったからなんだ。


 ……本当に。


 井上さんみたいなヒトが、オトモダチなら良かったのに。



……………


………


 
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