うそつき執事の優しいキス
 俺にだって心の準備っていうモノが……っ!


 なんて、宗樹は、よくわかんないことを言ってるけど!


 誰に聞いても『沈着冷静で慌てない』はずの宗樹がものすごく焦ってる気がするけど、それ、無視!


 ぴよ~~んって音が聞こえそうな勢いで宗樹の胸に飛び込むと、ぎゅっと抱きしめ、そのまま彼の顔を見上げた。


「怖くて一人では君去津駅に入れません~~
 なんとか、して」


 そう訴えれば、彼はわたしに張り付かれたまま、つぶやいた。


「……それって、俺のせい?」


「朝!
 宗樹に怖い話を聞かされたからかも……」


「うっ……
 判った、判った、悪かった!
 だから、一回とりあえず、俺から離~れ~て~~」


 本当に困ったようなその声に、ぱ、と手を離すと、宗樹は息をついた。


「仕方ねぇ、帰りも付き合ってやる」


 お嬢さまは、これだからな~~と宗樹のしぶしぶ言っているはずの口元が、少し笑ってる……気が……


 わたしがじっと眺めていると、宗樹はすぐに視線を外し、コホン、と軽く喉の調子を整えて仕切り直した。


「それでお嬢さんはどうしてこんなに遅くまで、ガッコの周りをうろちょろしてんだよ」


「そ……それは、部活をあちこち見て回ったからよ」


「……軽音部には、来なかった」
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