うそつき執事の優しいキス
「だって、宗樹が来んな、って」


「ああ、そういえば言ったな……そんなこと」


 ちぇ、心配してやきもきしていた俺が莫迦みてぇじゃん、なんて。


 口の中でつぶやいてた宗樹に「今なんて言ったの?」って聞き返したら、手をぐいーーっと引っ張られた。


「ほら。帰るぜ、お嬢さん」


 宗樹、わたしを無視したあげく、ちょっと乱暴~~
 

 でも。


 宗樹に手を引かれてゆく君去津駅は、さっきと比べ物にならないぐらい怖くなかった。


 タダの古ーい駅で、お化け屋敷要素、全く無いんですが……


 ……なんでだろう?


 このままぼーっと手を引かれたままだと、また帰りの切符まで、買われてしまいそうで。


 切符の自動販売機直前で、宗樹を追い抜かすことも大丈夫だった。


 宗樹が側にいるから、かな?


 すごく安心する。


 この安心感は、なんだろうって考えながら、お財布を出し切符を買って……


 思わず「わぁ」と声を出した所で宗樹に顔を覗きこまれた。


「……なんだよ。いきなり大声を出しやがって!
 行き先を間違えて買ったのか?」


「ううん。切符代、食べちゃった!」


「……は? 食べ……? って、ってナニを!?」


 食えるのか、そんなモノ!


 なんて。


 驚いて聞き返す宗樹に、わたしはごめんって謝った。

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