うそつき執事の優しいキス
 だから、別に爺も、宗樹のお父さんも、宗樹も西園寺のモノなんかじゃなく。


 それぞれ自分は自分自身のモノじゃないの!?


 わたしは、自分が変なコトを言っているって言うつもりも自覚も無かったけれど。


 宗樹はただ静かに目を伏せた。


「ま、普通の企業だったら、そーなんだけどな。
 俺の家は少しばかり、西園寺と因縁が深すぎるんだ。
 なんせ、主従の関係を結んだのが、ノブナガさんとかヒデヨシさんとかが、天下狙ってた時代より前だって話だし。
 明治になってから執事と主の関係に収まったけれど。
 それまでは生きることも、死ぬことも、嫁を貰うことも、子どもを作ることも全部西園寺の言うとおりにしなくてはいけない……下僕の家系でもあるんだとさ」

 言って宗樹は、片膝を地面につけると、右手を自分の左胸にあて、身を伏せた。


「主(あるじ)、西園寺の姫君よ。
 我は、藤原家の末裔『宗樹』なり。
 この血肉魂その全てが貴女のものなれば。
 如何なる命(めい)も命(いのち)を賭(と)して従いまする」


 見た目がすごくカッコいい宗樹が、そうやって頭を下げると、まるで、どこかの国の騎士(ナイト)ようだったけれど!
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