キミが教えてくれたこと
こうしてまた平穏な日々が始まった
いつもの様に茉莉花はパスタと一緒に起き、学校に行き昼休みになると中庭でハルトとご飯を食べる
そんな些細な時間が幸せだと思うようになった
「好きだって思えることに自信を持っていい」そう百合に伝えた時、自分に言い聞かせているようだった
先のことなんてまだわからないが、自分の好きだという気持ちを大切にしようと
そんな風に思いながら今日も中庭でハルトとお昼ご飯を食べている
「で、そこで相手がバーンっと…って、茉莉花聞いてるか?」
『え、あ、うん!聞いてる!』
楽しそうに昨日テレビでやっていた格闘技の話をするハルトをずっと見てしまっていた
「絶対聞いてなかっただろー!」
『き、聞いてたから!だからちょっと離れてよ!』
ベンチに座っている茉莉花にふわふわと近づき、顔を近付けてくるハルトから逃げるように顔を背ける
「なんだなんだ?照れてんのか?」
意地悪にさらに顔を近づけてくる
『ちょっと…っ!』
バッ!とハルトを見るとかなりの至近距離で二人とも固まってしまった
「あ…え、と」
珍しくハルトも顔を赤くしそのままの状態が続く
ドキドキとハルトにまで心臓の音が聞こえそうだった
「林さん!」
そんな二人を現実に戻すように、弾んだソプラノの声が茉莉花を呼ぶ
『あ…川瀬さん』
「えっと…今大丈夫?」
ハルトが見えていない百合からすれば、今の茉莉花は一人何かから逃げるような態勢で固まっていた
『だ、大丈夫!む、虫が!春だから!』
そう言ってベンチに座り直すと、百合が「隣いい?」と聞いて茉莉花の隣に座る
「昨日はありがとう、すごく助かった。拾ってくれたのが林さんでよかった」
百合は昨日のアルバムを出して開いて見せた
「私、普段のお休みは一人で自分で作った衣装を着てこういったことを…。たまに、アニメのイベントとかに参加したりしてるの」
そうだったんだ、と手元のアルバムを見る
「親が教育熱心で小さい頃から習い事をたくさんしていて、その分友達と遊ぶ機会も無くて…。教育上良くないからってアニメや漫画を読むことも禁止されていたの。でもある日…」
中学生の頃、眠れない夜にキッチンで温かい飲み物を作っていた時たまたまつけたテレビで可愛いふわふわキラキラの女の子が勇敢に敵と戦っているのを見て衝撃を受けた
ただ淡々と1日1日を過ごしていた自分に、画面の向こうの彼女はすごく輝いて見えた
普通の女の子として恋をして、特別な力を授かった運命に立ち向かい次々と悪を倒す。そんな姿に胸が震えた夜を今でも覚えてる
そんな風になりたいって思えた自分を知って欲しくて、すぐに誰かに伝えたくて学校で唯一仲のよかった女の子に話すと
「え、百合ってそういう趣味だったの?ちょっと引く」
一言そう言われた。
話はたちまち周りに広がり、私を見る度みんなコソコソと何かを言っていて怖くてそれ以上誰にも話さなかった
でも好きな気持ちは抑えきれなくて…親に内緒でこっそり一人でイベントに参加した時に自分と同じものを好きな人がたくさんいたことを知った
その場所でその人達と一緒に服を作ってキャラクターになりきったり写真を撮ってそれが楽しくて夢のようで…
新しい自分の一面を知ることも出来たし、その度に私の居場所がここにあったんだって思えた
でも現実に戻った時、もう二度とあんな思いはしたくない。本当の自分を知られるのが怖いって思って高校ではせっかく出来た友達とも適度な距離を保つようになったの