キミが教えてくれたこと

練習と称して種目別に整列し、決められた順番に並ぶ

茉莉花はアンカーなので一番後ろに体育座りをしていた

「練習ですが、まずチームの実力を知ってみなさんでフォロー出来るように考えていきましょう!」


よーい、どん!っと百合は旗を上げた

初めに走ったのはクラスの男の子。運動部らしく走りはとても速い

二番目は女の子で早くはないが、三番目が男の子なのでまだなんとかタイムを縮めることができる

そして四番目、アンカーは茉莉花


「林さん!」

クラスメイトがバトンを手渡し、茉莉花はしっかりと掴んで勢いよく前を向き颯爽と走った


「ん?」

「え?」

「あ?」


クラス全員が茉莉花を見る


「…林さん…走ってる…よな?」

「誰だ?林さんの靴に重り入れたやつ」

「どうしよ…茉莉花ちゃん…」

「茉莉花、すげぇ運動オンチじゃん」


手の振りこそ大きいが、足の速さがそれに全く伴っていない

よく言えば競歩、悪く言えばまるでトイレを我慢してる小学生

クラス全員がゴールするまで茉莉花の走りを見ていた


『はぁっはぁっはぁっ…ど、どうだった!?』

「お前、よくあの走りで汗かけるな」

ハルトは呆れ顔で茉莉花の額に浮かぶ汗を見た


「茉莉花ちゃん…えっと、結構重症みたい」

『だから言ったじゃない!』

茉莉花は目を潤ませながら百合の体操着を掴んだ


「大丈夫だよ、林さん!男子がなんとか引き離してアンカーに負担かけないようにするから!」


「おい、お前も遅いだろ。まぁでも俺とこいつでなんとかするから、任せてよ」


「俺ら頑張るからさ!」


チームメイトがそう茉莉花に声をかける

今まで話したことのない人達が次々と不安を消そうとしてくれる

茉莉花は呆然としながら頷いた

「茉莉花ちゃん、みんな茉莉花ちゃんと仲良くなりたいんだよ」


百合は茉莉花に耳打ちした


チームメイトが自分の為に作戦を考えてくれている

クラスメイトが励ましてくれる

今まで距離を置かれることが多かった茉莉花はどうすればいいかわからなかった


ただ、嬉しいと思う気持ちだけは本物だった




< 32 / 87 >

この作品をシェア

pagetop