キミが教えてくれたこと
近頃の教室では体育祭の話題で持ちきりだ
「茉莉花ちゃん、今年はどんな服着たい!?」
『…王子様でなければなんでも』
えええーと肩を落とす百合を見てハルトはコソッと茉莉花に尋ねた
「服ってなんのことだ?」
『毎年体育祭でやってるクラス仮装でしょ?動きやすい服だったら何でもいいと思うけど』
ハルトに聞かれて怪しまれないように百合に伝えるように答えた
「私、お裁縫得意だから毎年作らせてもらってるの!」
『ああ、衣装作るの得意だもんね』
茉莉花ちゃん!しー!と人差し指を口元に持って来て注意された
特に百合の趣味を発言したわけではないのだが…
「今年の仮装の話し?」
「百合ちゃん去年の服もすっごく可愛く作ってくれたもんねー!」
クラスの女子2名が話しかけて来た
「今年も頑張るよー!!」
「じゃあさ!女子達に声掛けて衣装作り手伝おうよ!」
「いいね!林さんもどう?」
『あ、私は…』
クラスで残って何かするなんて予想していなかったため、grazieのバイトを入れてしまっていた
「…そっか、残念」
ああ、まただ
また距離を置かれてしまうかも。
『………』
違う。自分が相手と距離を置いてしまってたんだ
ーー"どんな人でも最初の一歩ってすげぇ怖いじゃん
ーー相手が受け止めてくれそうだったら、その一歩ってわりと簡単に進めるんだよな"
ハルトの言葉が脳裏を掠めた
『バイトの…』
茉莉花の言葉に3人が耳を傾ける
『バイトの前に残れる日があれば…参加してもいいかな?』
3人は顔を見合わせてニコッと笑顔になった
「当たり前じゃーん!」
「じゃあ私、さっそく女子に聞いてみるね!」
「茉莉花ちゃん、一緒に素敵な衣装作ろうね!」
そこにいたみんなが嬉しそうに受け入れてくれた
「だから言っただろ?」
ハルトは得意げな顔をして茉莉花の側に来た
少し顔が赤くなる
新しいことに飛び込むことはこんなにも勇気がいることなのか
クラスがまた体育祭の話題で盛り上がるのを見て茉莉花は微笑んだ