キミが教えてくれたこと


「まーりかちゃん!おはよ!」

『!!!』


朝、いつもの様に登校していると百合が後ろから両肩を叩いた

ただ茉莉花の体は連日のハルトのスパルタ指導で全身が筋肉痛だったため、驚きとともに痛みが走る

なんとか耐えようと思ったが体は正直なもので、茉莉花は肩を抑えながら少し前のめりになった


「え、え、茉莉花ちゃん大丈夫!?」

百合は焦りながら近づくが茉莉花がそれを制止した


『だ、大丈夫…大丈夫だから、これ以上私の体に触れないで…』


百合は頭の上にはてなマークがたくさん浮かんだ

「体痛いの?大丈夫?」

『あ、うん、ちょっとバイトで…』


なんだか気恥ずかしくてリレーの練習をしている、とは言えなかった


「そっか、カフェのバイトも体力勝負なんだね…」

アルバイトをしたことのない百合は妙に納得し、茉莉花は胸を撫で下ろした


若干前のめりになって教室に入り、最近仲良くなったクラスメイト達におはよーと言われて返事を返している茉莉花を心配そうに見ていた






「よし!今日はここまで!」


その声と共に茉莉花は地面に膝と両手をついて息を整えていた

体育祭当日を目前に迎えた今日もまたグラウンドで練習をしていた

『はぁっはぁっはぁっ…だ、だいぶ早くなったよねっ…』


「最初の頃と比べたらかなり上達したぞ!確実にタイムが縮んでる!」


茉莉花の隣に一緒に座り込みハルトが褒めた


『ああー、よかったーー!なんとか本番までには間に合って』

パスタが茉莉花に近づき尻尾を振って抱っこ抱っこと飛び跳ねるのを捕まえて胸に収める


『パスタも付き合ってくれてありがとう』


パスタはペロペロと茉莉花の頬を舐めた


「とうとう明日だな。すげぇよ、よく頑張ったな」


ハルトは茉莉花の頭を撫でる仕草を見せた

全てを貫通させてしまうその手でまるで本当に頭を撫でているように、優しく微笑み茉莉花を見つめた


『は、ハルトも…ありがとね!』

その手から逃れるように顔を真っ赤にし、視線を地面に向けた


「…珍しい。茉莉花が素直だ」

『な!』


顔を上げるとハルトと至近距離になった

「……ま、まぁ俺の指導のおかげだな!」

『!わ、私のセンスの賜物よ!』


二人とも顔を赤くして勢いよく離れた


パスタが足元で尻尾を振って首を傾げている

まだ顔の熱がおさまらない


「高校最後の体育祭、みんなで笑って過ごそうぜ。茉莉花なら絶対大丈夫」

『…うん』

ハルトの大丈夫、は茉莉花にとって魔法の言葉だ

いつも優しく包み込んで励ましてくれる。それだけで何でも出来るような気がするから


『私、もう一本だけ走ってみる!』


「おい、あんま無茶すんなよ!」


『大丈夫ー!』

茉莉花は笑顔で大きな声で叫んだ


『ハルトが励ましてくれたから、私頑張れる!最高の体育祭にさせるよ!』

茉莉花はグラウンドの向こうまで走った

「…ばーか。嬉しいこと言ってんじゃねぇよ」


茉莉花の後ろ姿を見ながらハルトは顔を赤くしてぼそっと呟いたのは誰も気付かない



「〜♩ん?」

週に3回通っているクラシックバレエの帰り、百合は時間があったので久しぶりに歩いて帰っていた

大好きなアニメのオープニング曲を口ずさみ、公園の前を通ると茉莉花が懸命に走っている姿を見つけた


その走りは以前見た走りではなく、まるで別人かと思うほどの速さになっていてかなり驚いた


そして先日の体の痛みを発していた茉莉花を思い出し、そういうことかと納得すると微笑んで何も言わず家に向かった


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