キミが教えてくれたこと
逃げてもいいということ
ジメジメとした6月、街では梅雨入りしたという
連日の雨で洗濯物がなかなか干せなくてなんだか憂鬱になっていた茉莉花だが、あの体育祭以降クラスメイトと仲良くなり憂鬱な気分を吹き飛ばしてくれるほど元気な彼女達に救われていた
「でー、うちの彼氏が実はサプライズで家の下にいて〜」
「きゃー!失神!!!」
今は百合と一緒にクラスの女子、山内(やまうち)さん、道下(みちした)さんと恋バナをしている
隣のクラスの男子と付き合っている山内さんの馴れ初めを聞いているところだった
「いいなー、私にも現れないかなー…王子様」
百合がそう呟いたのを聞いて、あなたが探してるのは二次元の王子様でしょ、と心の中で思った
「林さんはー?」
『え?』
ぼーっと百合を見ていると道下さんに声を掛けられた
「そういえば茉莉花ちゃんのそういう話聞いたことないや…」
「いないの!?好きな人とか、気になる人!」
山内さんが身を乗り出して茉莉花に詰め寄る
『気になる人…っていうか…』
山内さんの肩越しにハルトを見た
ハルトは教卓にたむろしている男子達が楽しそうに読んでいる週刊漫画を一緒になって見ている
時折、その漫画を見て笑っていて幽霊で無ければそこにいるのが自然に見える程だ
「楓太(ふうた)は!?」
『え?』
「楓太って、麻生(あそう)くんのこと?」
「いいー!アイツこないだ林さんのこと可愛いとか言ってたし!」
茉莉花と百合は顔を見合わせる
『麻生くんて…体育祭で女装してた…あの?』
「そうそう!私楓太と幼馴染なんだけど、優しいっていうか気弱っていうかさー…」
「おい、何堂々と悪口言ってんだよー」
道下さんが麻生くんの話をしていると、後ろから本人が登場し道下さんは一瞬肩を跳ねさせた
「ちょっとー、女子の会話に割り込まないでよね!変態!」
「誰が変態だよ!」
「せっかく楓太が林さんの事可愛いって言ってたって教えてあげてたとこなのにー」
「おま!そういうこと本人に言うなよ!!」
「だってほんとのことでしょー!?」
顔を真っ赤にさせて道下さんを怒鳴りつけるが、道下さんにはまるで効き目がないようでニヤニヤと目を細めて彼を見ている
「二人が付き合えばいいのに」
机に肘をついて両手に顎を置いて一部始終を見ていた百合がボソッとそう言ったのを聞いて、二人とも勢いよく百合を見た
「「コイツとは絶対ない!!!」」
タイミングよく被ったそのセリフでさえも二人にとっては喧嘩の材料になるのか、真似するな!とまた言い合いが始まってしまった