キミが教えてくれたこと
転校生が来て数日が過ぎたが、今だに彼は誰とも話さない
「す、素晴らしい!!!」
今日の美術の授業は油絵だった
アーティスティックな先生は画材を生徒に渡した後、特にテーマは決めず思い思いのものを書きなさいと楽しそうに言った
男子達はクラスメイトを描いたり、女子は美術室にある物と真剣に向き合ったりと和気藹々としていた所に冒頭の先生の歓喜が溢れる声が響いた
先生が目を輝かせていたのは、転校生、もとい桜庭譲二が描いた絵だった
どれどれ、とクラス全員が彼の絵を観にぞろぞろと集まる
彼の絵は赤や青、黒、ピンク、黄緑、色んな色が使われておりその色達が色んな形をして混雑している
見ていると温かくなるような、それでいて禍々しいような、何とも言えない作品だった
クラスメイトのほとんどがその絵を見て首を傾げ、半分の女子はさすが!とよく分かっていないが絵よりも彼の才能に胸をときめかせる
「このコントラストや色の配置。形で表さず色で魅せている…。そして何よりこの平面な絵なのに立体的に見えたり透明感や濁りもある…なんて独創的で美しいのかしら…」
先生は彼の絵を見て惚れ惚れしていた
「かくして、この絵はどう言った心情でお描きに?」
先生が作者である彼に聞くと、彼は無言で美術室を出て行ってしまった
「あ、ちょっと桜庭君!授業中よ!」
クラスメイトはそのまま静まりかえり、彼の背中を見送るしかできなかった
「…脱走癖があるな」
ハルトはまたか、と言って空中で伸びをしていた
授業が終わり教室に戻ると、転校生は自分の席に座りヘッドフォンをして本を読んでいた
「桜庭君、さっきの絵すごかったね!」
「よく分かんないけど、先生すごい褒めてたよ!」
「よく分かんねぇのかよ!」
クラスメイト達が談笑しながら近付く
「先生すごく絶賛してて、今度の絵画コンクールに応募するーっとか言って…」
「うるさい」
え、と女生徒が言いかけた言葉を止める
「うるさいって言ってんの」
転入して初めて発した言葉にみんな耳を疑った
「絵がどうとか、別にどうでもいいし。僕に関わらないでくれるかな」
彼はそう言うとまた教室を出てってしまった
「…なんだありゃ」
みんなあまりにも見た目とのギャップがありすぎて言葉も出なかった
「ありゃー。茉莉花より重症だなー」
空中で胡座を掻いているハルトをジロリと睨みつけた