キミが教えてくれたこと


学校の門をくぐると入学式に参加する数名の在校生が登校している



「あー!茉莉花ちゃんおはよー!」

「茉莉花ちゃんだー!」


『こらー、"林先生"でしょー?』


茉莉花は近付いて来る生徒達に顔を綻ばせる


「俺茉莉花ちゃんのクラスがいいなー」

「私もー!」

「先生、私は?先生のクラス?」

『さー?それはクラス発表の紙を見て、教室に入ってからのお楽しみです』


ええええーと嘆く生徒に早く準備をしなさい、と促すと元気に返事をして下駄箱へ向かっていく後ろ姿を微笑んで見ていた


「…先生」

その声に振り向くと一人の生徒が下を向いて眉間に皺を寄せている


『?どうしたの?』


「俺、入学式で祝辞読まなくちゃいけなくて。舞台に立って話すとかしたことないし…。頭真っ白になって話せなかったらどうしようとか…情けないけど…」


そうして口を噤んでしまった


『大丈夫!』

茉莉花は生徒の肩を叩く


『完璧にしようって思うと力が入っちゃうから、気楽に!肩の力を抜いて、リラックス!』

はい、深呼吸ー!という茉莉花の声に生徒は素直に深呼吸をする


『失敗したっていいんだよ。頭が真っ白になってどうしたらいいかわかんなくなったら先生を見なさい。先生が傍でちゃんとフォローしてあげるから』


生徒は安心したように頷くとありがとうございます、と言って下駄箱へ向かった


ーー私達はきっとどこかで、知らない間に誰かに支えられている


ーーそうやって巡り巡っていくということを



茉莉花は桜吹雪を横目に職員室へ向かった






『おはようございます』


職員室のドアを開けて挨拶をすると教職員達からおはようございます、と返事が返ってきた


茉莉花はそのまま自分の席に向かい鞄から資料を取り出す



「茉莉花せーんせっ」

そこに元気よく近付いて来たのは音楽の桃井先生だった


『桃井先生、おはようございます』

「おはようございます。茉莉花先生、例の件考えてくれました?」

『例の件?』


茉莉花は何のことか分からず頭にクエスチョンマークを浮かべる


「もー!まーた忘れてる!合コンですよ!合コン!」

『ごっ…!?…そういえばお誘い受けてましたね…』


桃井は何度も茉莉花に参加してほしいと頼んでいるが、乗り気ではない当の本人は適当に口実を見つけてはいつもその話題を避けていた



「茉莉花先生、可愛いのに勿体無いです!もっと日常を謳歌しましょうよ!」


『私は別に、そういうの興味がないので…』


「もー!そんなんだからずっと彼氏いないんですよ!」


『…大きなお世話です』


桃井の言葉がグサリと胸に刺さる

そんなことを言ったって、茉莉花にはずっと心に残っている人がいるのだ


「あ、でもー、合コンに行かなくても近場で見つけるっていうのもアリかもしれませんね!」

『…どういうことですか?』


桃井は意味深に笑う


「なんと!今日から新しく赴任される先生がいるんです!」


『はぁ…職場でそういったことは…』


ジャジャーンと効果音が付きそうな桃井の発言に茉莉花はため息をこぼしげんなりするしかなかった



「さっき、チラーっと顔を見たんですけど結構イケメンで愛想も良くって笑うとくしゃーって!茉莉花先生もきっと気に入りますよ!」


『いや、だから、私はそういうのに興味がないって…』


「しかも彼、"奇跡の子"って言われてたんです」


『"奇跡の子"?』


桃井の発言におうむ返しをする


「そう、彼はなんと大事故で…」


桃井が話し始めた時、茉莉花は机の上にあった資料をバサバサと床に落としてしまった

当の桃井は熱弁しており、気付かないのでそのままにし茉莉花は資料を拾い集める



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