memoria/primo amore【BL】
 
 桂木遥隆には、幼馴染がいた。

 彼の父親が実家の家業を継ぐ事になり、住み慣れた町から引っ越したのもあってか、近所のこども達に馴染めずにひとりで遊んでいることが多かった。

 そんな彼の手を引いて連れ出してくれたのは、隣に住んでいた「なおちゃん」という名前の子。

 キラキラした笑顔がとても印象的だった。
 何故過去形になるのかというと、なおちゃんは遥隆と遊び始めて直ぐにどこか遠くへと引っ越してしまったからだ。

 その所為で遥隆は、「なおちゃん」と言う名前ときららかな笑顔しか覚えていない。

 それでも。

 遥隆にとっては大切な思い出だ。

 12年という歳月が流れても、なおちゃんの笑顔を思い出す度に心が弾む。

 その感覚に名前を付けるのなら、間違いなく「恋」なのだろう。

 しかも「初恋」だ。

 けれど、もう逢えないかもしれない相手にいつまでもそんな思いを抱いているのは、正直辛かった。

 雪斗が有名私立である第一遠和学園に入学したその日。

 自宅の隣にあったなおちゃんの家が取り壊されてしまった。

 その跡地には、立派なアパートが建設された。

 思い出の欠片は無残にも消え去り、それと同時に、遥隆は心に抱き続けていた思いを封じる事に決めた。

 だが、運命というものは時に無駄なお節介をやいてくれる。

 高校へ入って初めての夏休み中盤。

 遥隆は、跡地に建ったアパートに越してきた「なおちゃん」と再会したのだった。

 とんでもない思い違いを引き連れて──
 


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