memoria/primo amore【BL】
──まさか、なおちゃんが男だったなんて……。
七生の元から逃げる様にして自室に辿り着いた遥隆は、力無くベッドに倒れ込んだ。
何気なく窓へと視線をやると、アパートの屋根が見える。
はあ、と深い溜息を吐いて枕に顔を埋めた。
視界を遮っても、頭の中を「なおちゃん」が埋め尽くして行く。
憶えているのは、きららかな笑顔と名前。
大切な思い出なのに、たったそれだけ。
どんなに成績優秀でも、幼い頃の記憶まで優秀である筈がない。
そもそも、どうして七生を女の子だと思ったのか。
幼い頃は、恋心なんて抱いていなかった筈だ。
どこかで記憶と想いとが交差して、変な風に結びついてしまったのだろうか。
けれど、どんなに考えても答えなんて出てきてはくれない。
勉強とは違うのだ。
一度は忘れようと決めた想い。
自分の勝手な期待で七生に失礼な態度を取ってしまうのは、やはり申し訳ない。
いつまでも引き摺っていても仕方がない、と自分に言い聞かせた遥隆は、次に七生に会った時はちゃんと彼に向き合おう、と心に決めた。