コワレモノ―人類最後の革命―
「ちょっと、開けて!」

車は私を積載していることを忘れたように走り出した。私はそのトランクの中で、がむしゃらに叫び続けた。

「姫乃様、お怪我はございませんでしたか?」
「大丈夫」
「ご無事で何よりです。…それにしてもさっきから、何かトランクの方で物音がいたしませんか?」
「そういえばそうかも…。ま、気にしないで。多分人の形をした野生動物が入ってるだけだから」
「かしこまりました。…上の者に盾を突くなど、愚かなことをするから…」
「そうだよね」
「あっ、聞いておられましたか。いやはや、お恥ずかしい…」

声は確かに聞こえるのだが、トランクの狭さゆえ一切の身動きが取れない。しかも二人は、当然のことながら私の叫びに答える気もない。それどころか、私のことを「人の形をした野生動物」などと揶揄している。まるで平等を唱える者は悪で、不平等こそ正義と言わんばかりの態度だ。

「姫乃様、こちらで先にお降り下さい。私は動物を処分して参りますので」
「うん。くれぐれもちゃんと頼むよ?」
「はっ」

ドアが開き、再び閉まる音が聞こえる。そして車はまた走り出したが、今度はすぐに止まった。

「ふぅ…」

ドアが開く音。…次はトランクか。

突然、眩しい光が目に飛び込んできた。

「さあ、お降り下さい。あなたを処分して差し上げます」
「…あなたは何者…?」

目をつぶったまま尋ねる。

「申し遅れました。私、坪根姫乃様の執事をしております今瀬公務(イマセ・ヒロム)と申します」
「執事ね…」
「さて、こんな無駄話をしていては姫乃様をお待たせすることになりかねません。早くお降り下さい。姫乃様のため」
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