脳をえぐる小説集
放課後、行人は帰る途中に市立図書館へ寄った。
夕方の館内は、人が少なく、静かだった。
一番目立たない、奥の席に座り、学生鞄から一冊のノートを取り出した。
ごく普通の大学ノートだ。だいぶ使いこまれているらしく、表紙が色あせ、四隅がささくれている。
机の上に、そのノートを広げた。
ペンケースから、愛用しているボールペンを取り出し、強く握りしめる。
そしてノートの余白に、少しずつ、ゆっくりと、こんな文章を書きはじめた。
『深夜の道路。電柱に、田倉信次を縛りつける。ハサミを持ったぼくがその前に立つと、田倉はだらしなくわめき、じたばたと暴れる。しかし太い針金でしっかりとぐるぐる巻きにしているから、奴は動けない。ぼくは笑いながら、いきなりハサミで田倉の耳を切る。田倉はええ、と叫んで目をつぶり、頭をふりまわす。そのせいで手元が狂い、ちぎれかけた耳がだらしなく垂れる。ぼくはその耳をつかみ、思い切りひきちぎる。田倉は悲鳴をあげ、電柱に後頭部を打ちつける』
そのあとも引き続き、田倉をいたぶる文章を書いていった。
これが、田倉のストレス解消法だった。
空想の中で、田倉を激しく虐待し、その様子をノートにつづる。
そうすることで、架空の優越感にひたっていた。