脳をえぐる小説集


そのとき、ふと、このことが誰かにばれやしないかと不安になった。
しかしすぐに、それは無いなと思い直した。


世間では、付喪による事件がたくさん起きているが、国や警察は、何の対策もとれていない。それはそうだろう。物や道具が動きだして、ひとを襲う。そんな非常識な現象に対して、何ができるというのか。


田倉を切り刻んだのは、付喪になったノートだ。
ただの大学ノートが、人を襲ったなんて、誰が想像できるだろうか?
しかも、それをやらせたのが、一般人である行人だなんで、絶対に分かるわけがない。


安心した行人は、ベッドに寝転がって、ため息をついた。


しばらくの間、天井を見上げてぼんやりとする。




そのノート、何?




急に思い出した。
静かな声。
細い目と、赤い長袖のシャツ、黒いズボンが脳裏に浮かぶ。




変な声がするんだよ、そのノート。あんた、どういう使い方をしているの?




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