脳をえぐる小説集
ノートがびくんと震えた。
少女は凄い速さで、繰り返し繰り返しノートを引き裂き、破り捨てた。
ばらばらにしたあと、床に落ちた細切れを拾い集め、その一つ一つをまたさらに、細かく破り捨てた。
そして、もはや塵に近くなったそれを、無造作に床にばらまいた。
行人は、黙ってそれを見つめていた。
混乱していて、何も言えなかった。何もできなかった。
この少女は一体何者なのか?
何の気配も感じさせずに、どうやって部屋に入ってきたのか?
なぜ、黒色ノートを破るのか?
わからない。何がなんだかさっぱり分からない。
しかし、一つだけ、なんとなく分かったことがあった。
たぶん、ノートをぐしゃぐしゃにしたのは、この少女だ。
ノートが怯えていたのは、この少女だ。
背中に汗が浮いてきた。
急激に、喉が乾く。
この少女は、普通じゃない。
それだけは、確信できた。
「おい、あんた」
静かな声が、部屋にひびいた。
行人がふりむくと、部屋の入り口のドアの前に、ひとりの少年が立っていた。
細い目。赤い長袖のシャツ。黒いズボン。
図書館で会った、あの少年だ。
ノートに喉を切って、殺してもらう予定だった、変な奴。
少年は、まっすぐに行人をにらんでいた。