脳をえぐる小説集
羅利子は雅彦の恋人である木川奈津に、こっそりと嫌がらせを始めた。
靴箱に汚物をつめこんでやった。机に包丁で傷をつけてやった。体操服を引き裂いてやった。
顔を赤くして怒る雅彦のそばで、羅利子は木川に同情するふりをしてみせた。気分は少しも晴れなかった。むしろ前以上に、どす黒いものが満ちてきた。
数日後、雅彦にばれた。
朝早くに、木川の机の中に、魚の死骸を入れようとしたところを、見られてしまったのだ。
雅彦は、羅利子を殴るでもなく、さげすむでもなく、ただ悲しそうな表情をして見つめていた。それを見て、自分が雅彦に、友人として強く信頼されていたことに気づいた。
しかし、もう遅い。
雅彦に絶交を言い渡された。
二度と、口を聞いてもらえなくなった。
それでも、雅彦に対する想いは消えてくれなかった。むしろ、激しく拒絶されることによって、ますますいびつにふくらんでいった。
雅彦の写真を集めはじめたのは、それから一週間後のことだ。
友達や木川と遊んでいる雅彦の笑顔を、望遠レンズつきのカメラで、はなれたところから、何度も撮影した。もう彼は自分には笑いかけてくれないだろうから、こうして彼の笑顔の写真を集め、それを眺めながら、自分をなぐさめた。木川といっしょに写っているものは、木川の顔の部分だけを噛みちぎった。そしてそこに自分の顔がはまっているところを空想し、暗い喜びにふけった。
写真が段ボオル箱にいっぱいになった頃、雅彦は交通事故で死んだ。