脳をえぐる小説集
「な、何だよ?」
行人は、声を震わせながらつぶやいた。
少年は、部屋の中に入ると、いきなり行人を殴り倒した。
「ご、ごめん」
床に転がりながら、反射的に謝った行人の顔面を、少年はさらに蹴りあげた。そして叫んだ。
「あんた、あのノートに何てことをやらせたんだ。ノートの中身を読んだよ。ページについた血も見た。・・・・・・想像は、ついたよ。くそ、何てことだ」
少年は、悲しそうな目で、散らばったノートの紙片を見下ろし、つづけた。
「図書館であんたに会ったとき、ノートが付喪になっていたことは、声でわかった。でも、その声に黒い殺意は感じられなかった。そのかわり、とても温かい優しさを感じた。おそらく、持ち主であるあんたに対する優しさだ。だから、問題はないと思ってほおっておいた」
行人には、少年の言っていることがよく分からなかった。
声とは何なのか?
殺意?
優しさ?
一体何を話しているのか?
少年は、拳を握りしめて言った。
「とんだ誤算だったよ」また、行人をにらむ。「ぼくを殺しにきたときも、あのノートの声にあるのは、殺意じゃなくて、優しさだけだった。あのノートは、あんたに対する優しさで、ぼくを殺そうとしたんだよ」
「何なんだよ、あんたら」行人は怒鳴った。「ひとの家に勝手にあがりこんで、暴力ふるって、ひとのノートを破って。わ、ワケわかんないこと言って。そ、そのノートは、おれのなんだ。どう使おうが、お、おれの勝手だろう」
少年は、無表情になった。そして、静かに言った。
「そうか。自己紹介が遅れたね。ぼくの名前は枕陸。付喪狩りをやっている」