脳をえぐる小説集
行人は固くなった。頭の中が麻痺し、思考が止まる。
ゆっくりと深く、息を吸い、吐いた。それを三回くりかえすと、全身に汗が浮いてきた。
死んだ。
目の前で、人が死んだ。
それなりの衝撃は覚悟していたつもりだったが、予想以上にきつかった。
何度も激しく深呼吸をして、吐き気と暴れる心臓の鼓動をおさえようとした。
少し落ち着くと、もう一度遊美の死体を見た。
首のない遊美の死体は、静かに立っていた。
行人は違和感を覚えた。ちがう。何かがちがう。
しかし、そのひっかかりは、外から近づいてくる足音によってすぐに忘れさられた。
陸がもどってきたのだ。
行人は警戒しながら言った。
「次はあいつを殺すんだ」
遊美の首が、すう、と浮いた。髪に染みこんだインクが、遊美の首を持ち上げたのだ。