脳をえぐる小説集


行人は絶叫した。
喉が痛くなるくらい、長く長く悲鳴をあげた。


嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ


分からない分からない分からない分からない


理解できない怖い理解できない怖い理解できない怖い


尻餅をつき、悲鳴をくりかえしながら、行人は壁際まで逃げた。背中が壁に当たっても、まださがろうとして、床をひっかいた。

「落ち着け」
歩みよってきた陸に、頬をはられた。
行人は我にかえった。
そして、陸にすがるようにして、震える声で聞いた。
「な、何なんだよう?何なんだよ、あれ、あれ?」
「よく見ろ」
面倒臭そうに、陸は顎で遊美のほうをさす。


唾を飲み、渇いた喉を少し濡らしてから、行人はゆっくりと顔をあげてそれを見た。
首のない、遊美の体が、しっかりと立っている。
そういえば、何かが足りない。
死体とは、何かが違う。
「あ」
ようやく気がついた。
血だ。
遊美の首の断面から、血が一滴も流れていないのだ。
それどころか、首の断面の中身は無機質な空洞になっている。想像していた、ぐちゃぐちゃな肉ではない。まるで、マネキン人形のような。
「まさか」
行人の脳裏に、ある予想が浮かんだ。
しかし、その予想を信じることができない。
陸は、静かに言った。


「もう気づいただろう。そう、遊美ちゃんは、人形なんだよ」目を細める。「人形の、付喪なんだ」


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