脳をえぐる小説集
周一郎は、人形を作ることにした。
遊美の人形である。いままでに造形美術の分野で培ってきた技術の全てを使い、本物の人間に近い精巧な人形を作るのだ。遊美の呼吸や体温を感じるような、骨や内蔵の気配も伝わるような、限りなく人間に近い、凄まじい人形を。
翌日から、すぐに製作にとりかかった。
まずアトリエにしまっていた作品を全て売り払い、今回のための資金を調達した。そして材料として、床屋から、大量の髪を買い取った。他にも莫大な金額を投入して、公にはできない非合法な素材もたくさん取り寄せた。
材料がそろうと、すぐに作業を開始した。
作業は、遊美の部屋に道具を持ちこんで行った。
部屋にはまだ、遊美の生活の匂いが染みついていた。ベッドや絨毯には、遊美の髪がいくつか落ちているし、机や窓には、遊美の指紋があちこちについている。それを見ると、楽しかった遊美との思い出がまた次々とわいてきて、周一郎はまた泣き出す。泣きながら、人形を作り始める。大声で泣き叫び、うめく。苦しい。胸が苦しい。その苦しみを人形を作る手にこめる。ほとんど残っていない歯を食いしばりながら、涙と鼻水を流しながら、それでも両手だけは、冷静に、慎重な手つきでゆっくりと動かす。
決して急いではいけない。少しずつ、精密に、確実に作らなければいけない。娘を作っているのだ。子宮の中の胎児を扱うくらいの心積もりでいなければならない。少しでも、手に余分な力が入ると、すべてが崩れてしまう。
周一郎は、全神経に気をはりめぐらせながら、作業を続けた。