脳をえぐる小説集
朝日がさしこむ部屋の中で、周一郎は、完成した遊美の人形にまず服を着せた。白いブラウスに、黒いスカートだ。そして人形を椅子に座らせると、その前に立った。
肩が震えた。
無意識に、祈るようにして両手をあわせていた。
「できた」
その人形は、特別に美しいものではなかった。腰までのびた長い黒髪に、長い前髪。整った顔つきをしてはいるが、あくまで普通の人間の少女を再現しているものである。マネキン人形や彫像のように、無機質に均整のとれた形をしていない。ニキビやホクロがあるし、産毛もある。爪も少しのびているように作られている。目をひくような美しさはない。本当に、普通の少女が椅子に座っているだけのように見える。
しかし、それがすごい。
作りものの気配が全くないのだ。
睫毛や、わずかにささくれた唇の皮といった、想像を絶するほどの緻密な細工により、そこに人間がいるかのような存在感を見事にかもしだしている。
「・・・・・・遊美」
完成した喜びと安心で、体から一気に力が抜けた。老体に蓄積された重い疲れのそいで、周一郎の意識はゆらぎ、体が前のめりにかたむいた。
その時、
人形が動いた。
椅子から立ち上がり、倒れそうになった周一郎の体を支えたのだ。