脳をえぐる小説集
「ああ、すまない」
と、状況もよくわからずに、思わず口にしてしまった。
そのあと、周一郎はゆっくりと目を見開いた。
朦朧としていた意識がいっきにさめてゆく。
「え?」
顔をあげる。
人形は、周一郎から手をはなすと、まっすぐに立ち、そのまま動かなくなった。
「・・・・・・動いた?」
周一郎は、ぼうぜんとつぶやいた。
そのまま、遊美の人形と、しばらくの間、無言で向かいあった。
窓の外から、鴉の鳴き声が聞こえた。風が、カーテンをゆらす。
沈黙の中、自分の鼓動が早まってゆくのを感じる。
「・・・・・・なぜ?」
周一郎は考えた。しかし、わからない。どうして人形がひとりでに動きだしたのか、理解ができない。
・・・・・・そう、いわゆる常識の範囲内では。
常識の外で考えるのなら、ひとつの想像が浮かぶ。そしてそれは自分が、心の底から望み、願っていた奇跡だ。
「遊美か?」
周一郎は、かすれた声で聞いた。
人形は答えない。いや、答えられるはずがない。人間のように、声帯などついていないのだから。
それでも、周一郎は聞かずにはいられなかった。
「おまえ、遊美なのか?遊美の魂が、人形にのりうつったのか?」