脳をえぐる小説集


「・・・・・・おお」


涙など、とうに枯れ果ててしまったと思っていた。人形を作っている間に、あれだけ絶望の涙を流したのだから。
しかし、いま両目から溢れだしている涙は種類が違う。あたたかい、喜びの涙だ。希望の涙だ。
周一郎は、絨毯に額をこすりつけ、大きく嗚咽をもらした。そして強く両手をあわせ、天に向かって感謝の意を示した。
これが神の采配なのか、それとも、人智を超えた宇宙の仕組みなのか、周一郎にはわからない。
ただ、この奇跡を起こしてくれた、なんらかの超常的な力に対して、周一郎は、深く頭をさげた。


遊美の人形は、そんな周一郎を無表情で見下ろしていた。




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