脳をえぐる小説集



その後、様々な場所で、付喪による、傷害、殺人が起きた。


そのことを周一郎が知ることはなかった。屋敷には、テレビもラジオもない。パソコンも置いていない。新聞もとっていない。俗世間の無駄な情報は、創作の感性をにぶらせるからだ。もし付喪のことを知っていたら、人形の嘘に気付いたかもしれない。


遊美の人形は、なんとなく、その付喪の事件の気配のようなものを感じていた。
屋敷の様々な物の声が、不安そうにざわついているのだ。それぞれの物同士が、それぞれの物の言葉で、何か緊迫した声色で囁いていた。
遊美はいま屋敷にあるただ一体の人形なので、他の物の言葉の意味はわからなかった。
物は、同じ物同士でないと、言葉の意味はわからない。ナイフはナイフとしか、ポットはポットとしか会話ができないのだ。
だから遊美も、付喪の殺人事件について知ることはなかった。



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