脳をえぐる小説集
それは、ある日突然起きた。
夜の一時頃。いつものように遊美の人形が部屋の真ん中でたたずんでいると、いきなりけたたましい物の声が聞こえてきた。
「みじぇねえねえみ。みじぇみみみみみねぇみ。みじぇねえねえねえねえ」
その物の声は何かおかしかった。いつも聞いている、屋敷の家具や道具の声とは、感触があきらかにちがう。
なんというか、声の中に、どろりとした、黒くて焼けるほど熱い何かがまざっているかのような、そんな感じだった。
遊美の人形は顔をあげた。
すると、周一郎のアトリエのほうから、激しい物音がした。何か液体を壁にたたきつけたような音、壁をたたく音、何かを倒す音、ガラスの割れる音。
そして、周一郎のくぐもった悲鳴。
アトリエで、周一郎の身に何かが起きている。
遊美の人形は走り出した。
顔面からぶつかってドアを押し開け、廊下に出る。すごい速さで周一郎のアトリエに向かう。
奇妙な物の声は、だんだんと大きくなっていった。まるで何かに興奮しているかのようだった。
「みじぇねみじぇねみじぇねねねねねみみみみねみねみねみじぇじぇじぇじぇみ」
声が急に止まった。
同時に、騒音も聞こえなくなった。
遊美の人形は、アトリエに飛びこんだ。