脳をえぐる小説集
「この声の、付喪?」遊美は上を向いた。「・・・・・・本当だ。聞こえる。やかかかかって、かすかに嫌な声が」
「・・・・・・?」
遊美と陸では、物の声の聞こえ方がちがうようだった。陸のほうが、遠くのほうの声もはっきりと聞き取ることができるらしい。
遊美は陸を見た。
「あの声を出している物を壊せばいいのね?」
「・・・・・・ああ」
「いいけど、何で?」
遊美は聞いた。
陸はその問いに驚いた。
「何でって、あの声が聞こえるっていうことは、また付喪が人を殺そうとしているんだぞ」
「そうね。それがどうかしたの?」
遊美の声は、落ち着いていた。
陸は、一瞬、怒鳴りつけようかと思ったが、彼女の無表情を見て、怒りがしぼんだ。
ああ、やっぱり人形なんだな、と思った。
「人が殺されるのは、嫌なことなんだよ」陸は答えた。「ましてや、大好きな物が、人を殺すなんて、ぼくには許せないんだ」
「そうなんだ。いいよ。じゃあ、壊しましょう」声が、低くなる。「わたしも、あの声は嫌いだから」