脳をえぐる小説集
陸と遊美は、アパートを出た。
道路の上に立つと、陸は、目をつぶって集中し、もう一度声の方向を確かめた。そして、声の聞こえる西にむかって走り出した。遊美がそのあとをついてゆく。
闇に包まれた静かな街並みの中、ふたりの足音が響いた。
「急いだほうがいいのか?」
走りながら遊美が聞いた。
「当たり前だろ」
陸が、少し息を切らしながら答える。
「わかった」
そう言うと、遊美は手をのばして、前を走る陸の肩をつかみ、そのまま片手で陸の体を持ち上げた。
「な、何だよ?何するんだ?」
宙にぶらさがった陸は、足をばたつかせる。
「急ぐんでしょ?」遊美は陸の体を肩にかついで言った。「飛ぶよ」
遊美は、陸をかついだまま、高く跳躍した。
大きな放物線を描きながら、五百メートルほど飛んだ。
跳躍している間だ、風圧で、遊美のスカートが強くはためいた。陸の前髪も乱れた。
家を三軒ほど飛び越えて、遊美は道路に着地した。かつがれた陸は、肩の上で固くなっていた。
そのあと三回跳躍して、陸と遊美は、駅前の交差点に降り立った。