脳をえぐる小説集
「大丈夫ですか?」
陸は駆けより、声をかけた。
警備員は気を失っていた。
顔が血まみれだが、呼吸はしているので、死んではいない。おそらくさっきまで、何度もあの黒い何かに頭部を強打されたのだろう。あちこちを逃げ回り、何度も転んだらしく、制服が埃で汚れている。
黒い何かは、宙を回転しながら、階段の方へ飛び、二階へあがっていった。
遊美は、レジや試着室を飛びこえながら、それを追った。
規則的な足音が、上にのぼってゆく。
陸は立ち上がって、あとをついていこうとして、足をあげた。
すると突然、床が揺れた。
陸は、転びそうになるのをこらえた。
そばにあったマネキン人形が、ひとつ、またひとつとたおれた。
「地震?」
陸はつぶやいた。