脳をえぐる小説集
すぐに揺れはおさまった。
しかし、陸が歩きだすと、また一度揺れた。
その揺れ方に、違和感を覚えた。いままでに、何度か体験したことのある地震と、なんだか感触がちがう。
普通の地震は、文字通り、地面の震え、下の方から揺れを感じるものだ。しかし、いま起きたこの揺れは、上の方からきているように感じる。
正確には、このビルの二階から、揺れを感じる。
陸は気付いた。
これは地震ではない。
揺れているのは、このビルだけだ。
二階で、「彼ら」が、このビル全体を震動させているのだ。
遊美。
そして、あの黒い何かの付喪が、いま二階で戦っているに違いない。
その証拠に、天井を通して聞こえる付喪の声が、緊迫感のこもったものになっている。
遊美と、黒い何か。
このふたつの付喪の戦闘が生み出す衝撃が、建物を震わせているのだ。
怪物だ、と思った。
でも、物がこれだけの力を出せるということに、格好良さも感じていた。恐怖や不安の中に、妙な憧れがまじっていた。
ビルの震動は、断続的に続いた。
陸は、転ばないよう気をつけながら、二階へ行くために再び歩きだした。