脳をえぐる小説集
そのとき、轟音が響いて、天井に穴が開いた。割れた天井板や、コンクリートの欠片といっしょに、小さい学習机が三台と、ホワイトボード落ちてきた。おそらく、二階が学習塾だったのだろう。同時に、濃い綿埃がたくさん降ってきた。
そのあと、遊美が穴から飛び降りてきた。まっすぐな姿勢で床に着地すると、陸を見て言った。
「壊した」
「え?」
遊美は、床を指差した。
そこには、黒い何かが落ちていた。陸は目を細めて、それをよく見た。
それは、懐中電灯だった。
真っ二つに割れている。
懐中電灯の付喪。
それが、黒い何かの正体だった。これが、警備員を襲っていたのだ。プラスチックでできた、古いタイプの懐中電灯だった。割れた部分から、わずかな電線と、乾電池がはみだしている。
陸は、悲しくなった。
この懐中電灯は、おそらくこのビルの備品だ。かなり使い込まれていたようで、プラスチックが、だいぶ色あせている。何人もの警備員に、使われてきたのだろう。何人もの警備員に、見回りのための、ささやかな明かりを与えてきたのだ。
それが、ひとを襲うなんて。